まだ日本人の渡航が珍しかった60年代に日本を飛び出し、日本人女性として初めて、究極のパイロットライセンス、ATRを取得したカナダ在住のチヨコの物語。各ページの下部のリンクがなくなったら次章へどうぞ。


by eridonna
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人生と飛行訓練のアナロジー Analogy

 人が一生のあいだに生き方を学んでいくプロセスと、飛行学校における学びのプロセスはとてもよく似ている。
 違うのはそれぞれの学校ですごす滞在期間である。

 人生の学校は卒業までに何年も何十年もかかるが、飛行学校のほうは短くて、速い人なら4カ月、遅くともほぼ1年あれば、最初のライセンス(自家用ライセンス)をとることができるだろう。
 飛行学校の訓練では、単に飛ぶための技術だけではなく、精神的にも学ぶことが多く、それまで気づかなかった自分を知るチャンスが何度もある。 
 
 その成長のプロセスは、大きく分けて3段階である。

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第一段階 初単独飛行。

 このとき初めて、本当の意味の自由を使いこなす機会が訪れるといえる。
 そばで怒鳴っていた教官が、飛行機から降りてしまい、生徒は一人で自分の命と飛行機の責任を取らねばならない。
 この日が来るまで、自分の中のいろいろな欠点を教官に指摘されるが、それを正直に受け入れない人は上達しない。

 中途でドロップアウトするのは、経済的困難なケースも含めて2割ほどいる。また過保護に育った若者で、短期間に集中する経験をあまりしたことのない人など、初単独したあとでドロップアウトするケースも1割。
 またアルコール中毒者や麻薬使用者は訓練生として適さない。
 かつてマリファナ常習者の生徒がいたが、過度に感情的になりやすく、訓練が続けられなかった。本人の性格がそのときによって変わってしまう、現実から離れてしまうなどの問題があり、安定した積み重ねができないのである。


第二段階 単独ナビゲーション。

 一人で3時間も、250マイルもの距離を飛び、他の2カ所の飛行場に着陸して帰ってくるという訓練である。
「人間は結局一人旅だということが、体験によってわかりました」とは生徒の言葉。


第三段階 フライトテスト。

 テストそのものよりもその前に行う模擬テストが非常にハードなので、この段階で「こんなにつらいなら、ライセンスなんかいらない」と文句を言った生徒もいる。
 これまでの訓練過程をすべておさらいして再検討するので、いろいろなプレッシャーをかけると、その人の一番弱いところがまず試されることになるのだ。
 
 特にプライドの強い人は、まず進歩が遅れる。そしてそのまま長い間放置しておくと、正直に現実を見つめるのに時間がかかり、それがついに事故のもと、となってしまう。
「今日は何を学ぶのだろう」という受け入れの態度でフライトをすれば大丈夫だが、「私は何でもできる。何でも知っている」という態度でいると、もっとも危険なことになる。
 ここでは、教えるほうにもかなりの忍耐が要求される。

 人生の学校も同じである。
 
 私はずいぶん自分は忍耐強い教官だと思っていたが、私みたいな飲み込みの悪い者を辛抱強く導いてくださった神こそ、けた違いに偉大な教官だと思っている。
 
 傲慢になり反抗的な態度で臨んでいるときは、思いがけない事故にあう。エゴが勝っているときは、あの小さな声も聞こえない。
 安全なパイロットを目指す者にとって、一番邪魔になるのは、実はプライドなのだ。

 大いなる流れに向かって、「私の進む方向はどちらなのか、教えてください」という素直な気持ちでただ祈るとき、新しい道はきっと見えてくるものである。     (おわり)


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by eridonna | 2009-11-06 22:03 | 第11章 終章