まだ日本人の渡航が珍しかった60年代に日本を飛び出し、日本人女性として初めて、究極のパイロットライセンス、ATRを取得したカナダ在住のチヨコの物語。各ページの下部のリンクがなくなったら次章へどうぞ。


by eridonna
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アメリカ空軍の基地へ

 そんな不思議な経験もしながら、私の教官生活は続いていた。
 次の年の2月、今年卒業する2年生と、去年の9月に自家用パイロットのライセンスをもたないで入学した1年生を連れて、ワシントン州スポーカンにあるアメリカ空軍の基地へ、見学に行くことになった。

 引率者は私一人、19歳~22歳 の35名の若者を2台のスクールバスに乗せ、生徒の中で1級のドライバーライセンスを持っている者が運転することになった。
 朝早く7時には出発、まだ2月のブリティッシュ・コロンビア州の山道には雪がたくさんあって、特に2級の道路は除雪も行き届かず、かなり危険なドライブであった。
 45マイル(約72キロ)のスピードでやっとトレイル、コロンビア・ガーデンを通り、低い谷を抜けてアメリカ側のノースポートに出た。

 このノースポートの町は、人口500人ほどの小さな村で、私はこの町の郵便局に私書箱を持っていた。あのころ、カナダポストがストライキをしていたので、日本からの手紙はみんなこのアメリカの郵便局あてに送ってもらっていた。
 母が送ってくれたお正月用の小包もここで受け取って、カナダ側に再入国するときには、税関でのりだのお餅だのを見せていちいち説明したものだ。

 国境の南は山も低くなり、雪も溶けて、ドライブしやすくなった。
 ハイウエイ25を南へ、ケトルフォール、コルビルを過ぎてスポーカン空軍基地に着いたのは午前11時前。
 私たちは小さなグループに別れ、あちこちを見学に散った。

 巨大な操作場(ランプ)にはボーイングB52が一列に並んでいた。
 その大きさに圧倒され、感激した。何しろジェットエンジンが8個もついていて、そばに立っている整備員がとても小さく見えるのだ。

 中に入ってコックピットを見学していたら、お昼になった。
 基地内の食堂に行くと、アメリカドル1ドルで何でも食べてよいというので、若い連中は大喜びだった。ステーキを3回も取りに行った者までいた。
 午後はボーイングのシミュレーターを使っての訓練をして、4時にはすべて終了となった。
 私は全員を集めて、夕方の7時までにはスクールバスに戻るように指示してから、市内の見物に出かけた。
 7時にバスに戻ったが、まだ誰もいない。
 7時半になっても生徒は一人も戻らなかった。
 いったいこれはどうしたことか、近くの警察の駐在所を探そうかと考えていたところへ、ドライバーのF君がのこのこ戻ってきた。

「みんなあそこのバーで無料のビールを飲んでいて、誰も帰ろうとしないんです」
「無料のビール? またそれはどうしてなの?」
「アメリカでは若い男はみんな軍隊に徴兵されていて、バーに来る男が少ないからです」と答える。
 
 私は半信半疑でF君についてそのバーに出かけて行った。
 中に入って驚いた。35人ともみんなそろってニコニコしながらビールのジョッキをあけている。とすぐにマネージャーがやってきて、「教官にもビールひとつ!」と叫ぶ。

「ありがとう、でもアルコールは飲みませんので」と断ると、いきなり目の前にジュースの入ったコップがあらわれた。
 この西部の居酒屋のマネージャーは如才がなかった。サービス満点という雰囲気である。まごまごしていると私まで長居をしてしまいそうであった。
 意を決して、私は口を開いた。
「バスは8時には出発します。それ以上は待ちません。もし残りたい人は、明日エアラインで自分でキャッスルガーに帰ること」
 マネージャーにお礼を言って私が外に出ると、文句を言いながらも、みんなしぶしぶついてきた。

 さてバスに乗ってからがこれまた大変だった。
 いつもは緊張しすぎるくらいの厳しい飛行訓練をしている連中である。それがビールを飲んで緊張がゆるみ、酔っ払って騒ぎ出した。
 さらに10マイルも行かないうちにバスを止めろ、止めてくれ!との大コール。
 そして全員がどやどやとバスを降りると、道端でみんな並んで立小便。寒いのも手伝って、それを何回か繰り返し、やっと国境についたのは真夜中の12時10分前だった。

 ぎりぎりセーフである。というのは、このパタソン峠にある税関は毎晩12時で閉鎖されることになっていて、それを過ぎると翌朝8時までアメリカ側で待たなければならないのだ。
 
 もうちょっとでカナダに戻れないところだった。
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by eridonna | 2009-12-02 18:26 | 第7章 BC州のカレッジ